未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
289

長野県大町市

2023年、フランス・パリで開かれた国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」。世界の名だたるトップブランドの担当者やバイヤーが足を止めたのが、信州の山で育つ山ぶどうで編まれた「籠バッグ」だった。森から得た素材を自らの感性で編み、唯一無二のデザインへと昇華させるのが、長野県大町市に工房を構える船生憲享(ふにゅう のりゆき)さんだ。籠が生まれるまでの物語を聞いた。

文= 柳澤聖子
写真= 柳澤聖子(表記があるもの以外すべて)
未知の細道 No.289 |25 September 2025
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
長野県大町市

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#1自然の草木で編まれたバッグに憧れて

「この蔓(つる)はリースにできるね。少しもらっていきましょう」

もう10年以上前になるが、友人と一緒に山登りに出かけたときのことだ。友人が木の上からぶら下がる葛(クズ)の蔓を手際よく束ねると、あっという間に美しいリースができ上がった。それ以来、山の恵みから生み出されるものに特別な魅力を感じてきた。

森で育った山ぶどうの蔓で編まれた籠バッグがあると教えてくれたのもその友人だ。

「丈夫で100年以上もつし、使うほどに艶が出て素敵なの」

その言葉が、ずっと心に残っていた。

昔から日本では、竹やアケビ、クルミなどを利用した籠やザルが暮らしの道具として使われてきた。なかでも、山ぶどうの籠バッグは1つ10万円以上するものもあるほど、とりわけ希少で高価な存在だ。籠について、もっと知りたいと思い情報を探すうちに、出会ったのが山葡萄籠工房・船生憲享さんの作品。斬新で洗練されたデザインに、思わず「かわいい!」と声が漏れた。

工房に飾られる船生さんの作品の一部。工房では、自由に作品を見ることができる(要事前連絡)

調べてみると、2023年にはパリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に初出展。今や世界のトップブランドからも注目を集めているという。
私は籠作りの現場を見てみたくなり、工房のある大町市へと向かった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。